衛星使って農漁業

画像の説明 マグロ漁場、宇宙から予測

海面の観測データから海中に魚が多く潜む場所を探し出したり、無人で夜中にトラクターを走らせて畑を耕したり。人工衛星からの情報を漁業や農業に活用する技術の開発が進んでいる。宇宙の利用が身近な産業にも広まっている。

深い海にいる魚の群れを宇宙から探す技術が実用化された。

漁業情報サービスセンター(東京)は6月、水深数百メートルを泳ぐメバチマグロやアカイカがいると考えられる場所を漁船に知らせるサービスを始めた。

漁船に伝えるのは、海面から水深300メートルまでの海水温の分布図。漁師が漁場探しで重視するのは海水の温度。魚によって好む水温が違い、温かい海水と冷たい海水がぶつかる潮目にはえさのプランクトンが豊富だ。

漁業で衛星利用が本格化したのは80年代。漁船が水温計で測っていた海水温を衛星の赤外線観測で調べられるようになった。海面近くにいるサンマ、カツオ、イワシ、アジなどの漁場探しに使われているが、もっと深いところを泳ぐメバチマグロなどを探すには、衛星が観測できる海面の情報で海中の温度を推定する方法が必要だった。

そこで着目されたのが、海面の高さ。温かい海水は体積が膨張して海面が盛り上がる。海面高度が高ければ、その下に温かい水があるはずで、海面の温度が周辺と同じなら、海中に温かい水があると推定できる。

センターは、漁船に計測器を投下してもらって海中のデータを集め、衛星で得た海面の高さとの関係を分析。海面が周辺より盛り上がった海域の深さ200~300メートルには、メバチマグロが好む水温16~17度の温かい部分があることを突き止めた。

同センターの為石日出生・専務理事は「漁場があらかじめ分かれば、探し回る手間が省け燃費の節約になる」と話す。マグロはえ縄漁の漁船は衛星データ利用後で、平均16・1%を減らせたと試算する。

■無人トラクター

朝、目が覚めたら無人トラクターが畑を耕し、種まきも終わっていた――。

こんな未来を実現しようと、北海道大や農業・食品産業技術総合研究機構は、無人トラクターの実証試験を進めている。

無人走行を支えるのは、トラクターが現在いる位置を精密に測定する衛星の測位技術だ。カーナビなどに使う全地球測位システム(GPS)は、最低5~6メートルの誤差は出るが、2010年に日本が打ち上げた準天頂衛星「みちびき」が発信する補正信号を使えば、衛星電波の受信機を備えたトラクターの位置の誤差は10センチほどに収まる。

野口伸・北海道大教授(農業情報工学)によると、田畑の種まきには誤差を3~5センチに抑える必要がある。最初は人間が運転するトラクターが追尾したり、併走したりして安全面に配慮するが、将来は完全無人走行をめざす。

効率よい作業で燃料を節約でき、種をまいた場所に合わせて農薬や肥料を散布できるので使用量を大幅に減らせる。悪天候が迫った緊急時、夜間にトラクターを走らせて作物を急いで収穫すれば被害を減らせる。

衛星画像を農産物の収穫に活用する技術は実用化されている。北海道十勝地方などの農協14カ所では、衛星画像の解析で小麦の成熟度をチェックしてから刈り取りの順番を決めることで、収穫後の乾燥費用を抑える。衛星画像からコメのたんぱく質の量を推計して、品質の高いコメと低いコメをわけて収穫する取り組みも進む。

野口教授は「衛星画像で得た生育状況の情報と無人トラクターを組み合わせ、さらに生産性を上げられるだろう」と話す。

■民間も研究開発

1957年に旧ソ連で世界で初めて人工衛星が打ち上げられてから半世紀あまり。衛星には多様な観測機器が搭載され、性能も向上してきた。

農漁業に役立つ機会が多いのは、地表や海面を観測する地球観測衛星。72年に米国が「ランドサット」を打ち上げ実用化が進んだ。海や陸、大気のほか、地下資源や森林伐採の調査、地図作成など利用は幅広い。

地上の物体を見分ける性能も向上している。92年に打ち上げられた日本の衛星は18メートルの大きさを見分けるのが限度だったが、5月に打ち上げられた「だいち2号」は1~3メートルに上がり、より鮮明な画像が得られるようになった。複数の衛星が連携して地球全体をカバーする国際協力も増えている。

巨額な費用がかかる宇宙開発は多くが国家プロジェクトだったが、民間の研究開発の動きも広がっている。昨年、日本の企業が世界で初めて民間気象衛星を打ち上げ、大学や企業が気軽に観測できる超小型衛星の開発も進んでいる。

<海面高度> 海面には海水の密度や重力の影響で凹凸が生じる。衛星から海面に向けてマイクロ波を発射し、反射波を受信して海面からの高さを測る。数センチの精度で計測できる。宇宙航空研究開発機構も新型の高度計を載せた衛星の打ち上げを検討している。

<衛星測位システム> 衛星からの電波で地球上の現在地を知ることができ、カーナビやスマホに利用されている。米国はGPS、ロシアはGLONASS、欧州は「ガリレオ」、中国は「北斗」の運用や試験を進めている。

<地球観測衛星> 人工衛星に搭載したセンサーで地表や海面を観測する。地上や海上の装置では範囲や頻度が限られるが、長期的に広域を観測できる。農業ではたんぱく質の含有率などから作物の生育状況を、漁業では海水温や植物プランクトンなどの観測値などが利用される。

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