米東海岸の港町に見る栄枯盛衰

画像の説明 地区連銀候補だったボルティモア

米東海岸の港町に見る栄枯盛衰

先日、米国東海岸の港町、ボルティモアに行く機会があった。インナーハーバー(内港)地区は観光客で大変なにぎわいを見せていた。

ボルティモアで再開発されたインナーハーバー(内港)。観光客誘致としては成功しているが、人口減少が悩みの種だ

1980年頃から再開発が進められた同地区は、全米有数の巨大水族館などで構成され、近くには美しく整備されたボルティモア・オリオールズの球場もある。この辺りだけを見れば活気ある街なのだが、実はこの都市は深刻な人口減少に長く悩まされてきた。50~70年代は90万人台だったのに、2000年代に入ると60万人台前半まで落ち込んだ。

ピークから3割以上も減っただけに、華やかなインナーハーバーから少し離れると、目抜き通りであってもビルの多くはテナントが入っていない。窓がべニヤ板で覆われているか、「For Rent(空室あり)」がやたらと目立つ。

ボルティモアはワシントンから北東に普通電車で1時間ほどの距離にある。19世紀前半には全米で人口2位の大きな街だった。1913~14年にFRBの地区連銀の配置を議会が決める際には、有力候補都市の一つだった。

この第5地区では、当時、民間銀行の貸出金額、預金額は、ボルティモアが他の都市を圧倒していた。しかし、最終的にリッチモンドで決まったのは、金融行政に多大な影響力を持つグラス上院議員(後の財務長官、銀行業務と証券業務を分離したグラス・スティーガル法でも有名)が地元へ強力に誘致したからだと見なされている。もし彼がいなければ、ボルティモア連銀になっていたかもしれない。

半世紀以上続いていた人口減少トレンドに変化が見られるように

同市は鉄鋼や繊維産業などで栄えたのだが、それらの競争力低下とともに、雇用は減少、街を出る人が増えた。失業の増加とともに中心部の治安が悪化し、富裕層、中流層の大半が市の外へ移転してしまった。状況を打破するため市当局は、前述のインナーハーバーの再開発に着手する。観光客誘致としては大成功を収めたのだが、人口減少は止まらなかった。

ところが、最近、半世紀以上続いていた人口減少トレンドにようやく変化が見られるようになった。2012年は人口が1430人増加した。13年は313人の微減だが、市はほぼ下げ止まったとの見解を示している。その主因は、ローリングス市長の移民誘致政策にある。市のウェブサイトにはスぺイン語、ロシア語、中国語、韓国語のページもある。特にヒスパニック系の人々に市長はボルティモアに来るように熱いメッセージを送り続けている。

彼らが安心して暮らせるように、市は日常生活の相談をスペイン語で受け付ける施設を造り、英語教育も含むサポートシステムを構築。ヒスパニック系住民は、空いた店舗で新たな商売を始めるようになってきたという。

ただし、黒人差別問題を描いたミュージカル「ヘアスプレー」の舞台がボルティモアであるように、ここの保守層は必ずしもマイノリティに寛容なわけではなかった。現在もボルティモア郡選出のマクドノー・メリーランド州議員は市長を「不法移民を助長する」と攻撃している。

とはいえ、市の財政問題を考えると、人口減少、つまり納税者減少を放置するわけにはいかず、何らかの対策が必要だったようだ。デトロイト市はそれで破産した。日本の地方自治体にとっても人口問題は深刻であるだけに、ボルティモアの先行きが注目される。

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