蔓延する「接待」「贈り物」

夏祭り 「情報漏洩」の悪しき慣行…

豪雨復旧・談合事件で見えた林野庁と業者の“深すぎる関係”

平成23年の紀伊半島豪雨の復旧工事をめぐり、入札情報を漏洩(ろうえい)したとして、林野庁近畿中国森林管理局の元職員(判決後懲戒免職)と奈良県内の業者が有罪判決を受けた官製談合事件は、管理局の内部調査でほかにも職員9人が業者から接待や贈り物を受けていたことが判明。このうち元職員に漏洩を指示した元上司が停職6カ月となるなど6人が懲戒処分を受けた。しかし調査報告書は癒着実態の詳細より再発防止策に大半が割かれ、報告会見でも「役所の事情」が強調される始末。判決が「組織ぐるみの悪しき慣行」と断じた事件は、すっきりしない形で幕引きとなった。

判決は「悪質で常習的な犯行」と断罪

元職員(39)は24年11月と25年2月、同県十津川村での土木工事の一般競争入札前に予定価格に近い価格を地元の土木会社社長に漏洩し、公正な入札を妨害したとして県警に逮捕、起訴された。2人は官製談合防止法違反罪などで懲役1年6月、執行猶予3年の有罪判決が確定している。

今年5月に奈良地裁葛城支部であった判決では、談合について「確実に工事を落札したいという業者と、定められた予算を残すことなく使い切り、計画期間内に完成させたいという発注者側の思惑のもとに敢行された」と指摘。「従前からの悪しき慣行である両者間の癒着関係を背景にした悪質で常習的な犯行」と断じた。

一方で、元職員は管理局に着任した当初は土木会社社長が求める情報提供を断っていたものの、上司に「教えてやれ」といわれて教えるようになったとも認定。事件は元職員と社長個人の問題ではなく、業界と管理局の間に長年あった癒着関係だったことが明らかになった。

「接待」「贈り物」受け続けた職員ら

事件を受け、管理局は元公正取引委員会職員の横田直和・関西大学法学部教授を委員長とする外部有識者による調査委を発足。委員会が中心となり、管理局の職員473人を対象に記名式のアンケートを実施したほか、直接面談も行って実態を調べた。

その結果は、驚くべきものだった。有罪判決を受けた元職員以外にも9人が、業者から飲食接待などを受け、うち2人は情報漏洩も行っていたことが判明。年齢も20代から50代までと幅広く、若手もベテランもそろって「悪しき慣行」に染まり、接待や贈り物を受けていた。

最も「悪質」だったのは、元職員に情報漏洩を指示したと判決で認定された40代の元上司。元職員への指示のほか、局外秘である国有林直轄治山事業の予算が書かれた内部資料の情報をOBに漏洩していた。さらに業者などから4回にわたって計4万5千円分の接待を受け、千円相当の「刺し身」の差し入れを受け取っていた。

元上司は停職6カ月の懲戒処分。このほか、業者などから11回にわたって計8万7千円相当の接待を受けた50代の職員は減給10分の1(5カ月)、工事実績が書かれた資料や入札参加条件の緩和検討といった局外秘の資料を漏洩し、3回にわたって計3万2千円の接待を受けた50代の職員も減給10分の1(3カ月)の懲戒処分となり、9人のうち6人が懲戒処分となった。

元職員の停職6カ月は軽い?

管理局は処分について、情報漏洩の有無や接待の内容などから、人事院の規定に沿って行ったと説明。だが、元上司が停職6カ月で済んだのは、有罪判決を受けて懲戒免職となった元職員と比べると、軽すぎるようにも見える。

ただ元職員は管理局の内部調査で、起訴事実のほかにも8件の治山工事で入札情報を漏洩していたことが判明。元職員は公判で「(業者から)金銭は受け取っていない」と証言したが、内部調査では4回にわたり飲食接待を受け、刺し身やアユなどの贈り物を計15回受け取っていたことも分かった。起訴事実だけでは処分の軽重は微妙だが、内部調査結果をみれば、元職員の悪質性は確かに際立っている。

とはいえ、内部調査はあくまでも関係者の自己申告に基づくもので、限界も指摘される。

調査委が職員、役所を擁護?

実は23ページにわたる委員会の報告書は、ほとんどが再発防止策に割かれていた。元職員のほかに9人もの職員が接待や贈り物を受け取っていたという調査結果は、「参考」として末尾2ページに簡単に記載されていただけ。

7月、再発防止策を管理局の青木庸三局長に提出した横田委員長も記者会見で、報道陣が思わず首をひねるような発言を繰り返した。

事件の原因については、「現場の職員には、『目の前の仕事を何とかしたい』という思いがある。工事を予定通り進めるという結果を重視しすぎて、手続きを軽視する傾向にあった」と指摘。「手続きをきちんとしないとだめだということを、現場までしっかり共有することが必要だ」と述べた。

公判でOBが現役職員と業者のパイプ役を果たしていたとの指摘もあったが、この点について横田委員長は「役所内の事情を知っている人から見れば『OBが言ってきたから』といっても、何ということはない。(役所の)事情に詳しくない方は、OBと職員が親しくしていると『おかしい』と思うのかもしれない。役所内部の人が見る世界と、外の人が見る世界は違う」などと述べた。

判決が「悪しき慣行」と指摘しているにもかかわらず、報告書や会見は職員を擁護し、「役所の事情」を強調したとも受け取れる内容だった。

「OBには逆らえない」

だが、有罪判決を受けた土木会社社長は公判で、職員が同席した飲食の席でOBから「金を払え」といわれて支払ったときのことを、「局に顔がきくので逆らえない」と証言。業者側が管理局とOBがつながっていると判断し、接待を行ったことが明らかになっている。

果たして横田委員長が述べたように、「OBが言ってきても何ということはない」のだろうか。少なくとも、業者側がそう受け止めてはいないことは公判からも明らかだ。

管理局では23年にも、職員が同様の事件で有罪判決を受け、再発防止策に取り組んできた。今回発表した再発防止策では、「事案に関わった団体等に対し当分の間、当局退職者の採用自粛を要請する」「非違行為を行った事業者への罰則強化」などを掲げるが、果たして目指す「不祥事の根絶」につながるのだろうか。

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