羽田から

こおりすいかimages 昼間帯の米国便が飛ばない事情

10月就航のユナイテッドも深夜便

羽田発の米国線はすべての便が深夜早朝帯の発着となっている

米航空大手、ユナイテッド航空は5月12日、東京・羽田空港とサンフランシスコを結ぶ路線を10月28日から新たに就航すると発表した。ユナイテッドが羽田から路線を設けるのは初めてのことだ。

同路線の運航スケジュールは羽田発が0時05分、サンフランシスコ着が現地時間の17時15分(飛行時間は約9時間10分)。帰りは現地発が18時35分、羽田到着が22時05分(同約11時間30分)。行き帰りとも、羽田を深夜早朝時間帯(22~翌7時)に発着する便となる。

増便から抜け落ちた米国路線

羽田では今春から国際線が大幅に増便された。使い勝手のいい昼間帯(7~22時)の発着は従来、中国、台湾、韓国といった近距離アジア路線に限られていた。ここに、これまで深夜早朝発着しかなかったロンドンやパリ、バンコク、シンガポールなどの中長距離路線が加わり、新たにミュンヘンやバンクーバー、ジャカルタ、ハノイなどへの直行便も飛ぶようになった。

ところが、今回の羽田国際線の増便では肝心の路線が抜け落ちた。昼間帯の米国線だ。

言うまでもなく、日米路線はビジネス、観光ともに往来が活発。にもかかわらず、2014年夏ダイヤを見ると、羽田の米国線は深夜早朝帯の週49便しか飛んでいない。今秋から就航するユナイテッドの羽田―サンフランシスコ線も深夜発着だ。一方で、成田国際空港からは週約350便の米国便が飛んでいる。もし首都圏から昼間の時間帯に米国に行こうとすれば、成田を利用するしかないのが現状だ。

羽田の利便性を享受できない

「羽田の深夜早朝便は米国に行く際、特に東海岸行きは深夜に日本を発ち、深夜に米国に着くスケジュールとなってしまい、使い勝手が悪い」(アメリカン航空のエルワン・ペリラン太平洋地区副社長)

同社はニューヨークと羽田を結ぶ深夜早朝便を2011年2月に就航したが振るわず、13年末に撤退。発着枠を返上した。いくら羽田が都心から近いといっても、深夜早朝では公共交通機関の便が悪く、利便性を享受できない。他社の羽田発米国線も同じく苦労しているようだ。

難航する日米航空交渉
深夜帯の出発ボードには、米国線がズラリ

羽田国際線の昼間帯の年間発着枠は今春、従来から3万回増の9万回まで引き上げられた。1日当たり40便の増便となる計算だが、実際に定期便が飛んでいるのは31便。残る9便分はチャーター向けに暫定開放されている。

実はこれこそが米国線の昼間帯に割り当てられるはずの枠なのだ。今春から羽田の昼間帯で米国便が就航していてもおかしくなかったが、そうなってはいない。日米政府間の調整が難航しているためだ。

国際線は2国が相互乗り入れを認め合う。地点を決めて、原則として何便でも自由に飛ばせることを2国間で包括的に合意する「オープンスカイ」が世界的な流れであり、日本でも一部の地方空港で活用されている。

なぜ交渉は難航しているのか

しかし、混雑する羽田の昼間帯については枠が限られる。どの地点に何便飛ばすかは、相手国との合意なしには決まらない。これが航空交渉である。

2010年5月、今春の羽田国際線の発着枠拡大が決まったことを受けて、国土交通省は乗り入れ国との航空交渉を開始。今年3月末までに10カ国と合意して、31便の就航が決まった。米国に対しては、「最優先してきたが、調整は続いており、1日9便の範囲で合意したい」と、国交省の小林太郎・航空交渉室長は話す。

「課題は米国側にある」。米国の航空業界関係者は、そうささやく。米国から日本に乗り入れているのはデルタ、ユナイテッド、アメリカン、ハワイアン航空の4社。「それぞれの思惑が交錯しているために、米国当局もまとめきれていないのだろう」(同)。

デルタが成田にこだわる理由

象徴的なのがデルタだ。同社は羽田の昼間帯の発着枠を、9枠にとどまらない範囲で大幅に拡大したうえで、成田からの移管を想定して1社で20枠以上の獲得を要望しているという。

だが、今回の割り当てについては上限9枠で議論しており、「デルタの主張は現実的ではない」(複数の日米関係者)。このことが米国側の調整が難航している要因の一つ、と見る向きが多い。

デルタの主張には思惑がある。同社は成田に25枠という大きな発着枠を持ち、約800人の従業員やホテル、機内食工場などを抱えている。加えて、日米間だけでなく、中国やフィリピン、タイなど、日本と米国以外の第三国に飛べる「以遠権」を持つ。

デルタが以遠権を持つワケ

これは珍しい権益で、デルタと2008年に合併した旧ノースウエスト航空の歴史につながる話だ。旧ノースウエストが戦後、まだ日本に航空会社がなかった時代に、羽田を拠点として国際線を飛ばしていたことがそのルーツ。デルタほどではないが、ユナイテッドも同じ理由で、日本で以遠権を持っている。デルタもユナイテッドも、成田を中継地(ハブ)として、アジアと米国を行き来する需要を押さえている。

日本政府は1978年に開港した当時、成田を国際線の拠点にしていくと決めた。旧ノースウエストはそれに沿って、経営資源を羽田から成田に移した経緯がある。

羽田から先につながらない

4月に来日したオバマ大統領も昼間帯の羽田を利用した

羽田の国際化が進むことは、デルタにとって面白い話ではない。羽田から米国への昼間便が飛べば、一定の客が成田から流れ、成田のネットワークに少なからず影響が出るからだ。

また、ユナイテッドは全日本空輸(ANA)が加盟するスターアライアンス、アメリカンは日本航空(JAL)が入るワンワールドという国際アライアンスを組んでおり、運航やマイレージなどで連携できる。だが、デルタが属するスカイチームには、日本の航空会社が入っていない。発着枠の制限があり、羽田で以遠権を使えないデルタにとっては、今の9枠を前提に発着枠の配分が決まると、米国から羽田の先に自社ネットワークをつなげられない。

首都圏の空港を利用して日本と米国を往来する渡航者の大半にとって、昼間帯の羽田─米国線の就航は望ましいだろう。4月下旬、日米首脳会談で米国のオバマ大統領が政府専用機「エアフォースワン」で利用したのは、成田ではなく羽田だった。発着はいずれも昼間帯の時間。米国政府も昼間発着の羽田の利便性を認めていることを象徴する出来事だった。それでも、関係者の思惑が複雑に絡み合う中、足かけ4年をかけても日米航空交渉の出口はなかなか見えてこない。

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