「リッター40キロ」の壁

せみ 燃費ナンバーワン「ミライース」に立ちはだかる「リッター40キロ」の壁

ダイハツ工業は7月、主力車種「ミライース」を一部改良し、軽自動車で最高となるガソリン1リットル当たり35.2キロの燃費効率を達成した。

30.0キロから33.4キロに引き上げた昨年7月に次ぐ2年連続の一部改良で、スズキの「アルトエコ」(昨年10月に35.0キロを達成)と激しい燃費のトップ争いを繰り広げている。エンジンの改良が、今回の燃費効率の向上に大きく寄与した。

「難しかったのは高圧縮比化。いかにノッキングを取り除きつつ、実現できるかに苦労した」。開発部の西島健二主担当員はこう振り返る。

今回、エンジンの燃焼室に送り込むガソリンと空気の混合ガスの圧縮比を11.3から12.2に引き上げた。ただ単純に圧縮比を向上させただけでは、温度の上昇によって、燃焼室内でノッキングと呼ばれる意図しない燃焼が起こり、出力低下や機関損傷につながるおそれがある。「圧縮比とバルブ開閉のタイミングを変えたものを何種類も作り、最適化を探った。ようやく12.2の圧縮比を実現できた」と、西島主担当員は試行錯誤を重ねたことを強調した。

このノッキング抑制に大きく役立ったのが「アトキンソンサイクル」と「デュアルインジェクタ」の採用だ。

アトキンソンサイクルは、圧縮工程に入っても、空気を吸う吸気バルブを開けたままにすることで温度の上昇を防ぐ仕組み。西島主担当員によると「実際には空気を吹き戻す形になっている」。一方のデュアルインジェクタは、燃料のガソリンを噴射するインジェクタを1気筒当たり2本に増やし、噴射する燃料を霧状に微粒化。燃焼の安定化につなげたという。

いずれも、他社が先駆けて採用しているうえ、圧縮比でいえば、マツダが14.0、トヨタ自動車が13.5を実現、ダイハツを上回っている。しかし「排気量660ccの軽自動車用エンジンで高圧縮比を実現するには全く異なる技術が必要になる。単純な数値だけの話ではない」と西島主担当員は話す。

燃費向上には、高級車に使われる「フロアアンダーカバー」の採用も役立った。走行抵抗を低減するためのもので、後部タイヤの前の空気の流れを外部に逃し、タイヤの床下回りの流れを改善した。このほか、アクセルを離してから、ブレーキをかけずに止まるまでの距離を数メートル伸ばすことでも燃費改善につなげた。

軽自動車は、燃費向上を巡る競争が激しさを増している。営業現場にとって「燃費ナンバーワン」を訴えることが販促につながりやすいというのが一番の理由だ。ただ、低価格を売りにする車種は、価格に技術を転嫁できず、低価格・低燃費で売り出すミライースも今回、価格を据え置いた。

このため技術を新開発して採用するより、既存技術をいかに活用して、コストを低減しつつ燃費向上を図るかが大きな課題だった。ダイハツは「価格を気にせず軽量化すれば当社もガソリン1リットル当たり40キロは達成できる。しかし各社とも価格との兼ね合いで、勝負している」と現状の競争について分析する。

一方で、競争激化に伴い開発期間が短縮している。ダイハツも「開発期間を従来の半分から10分の1まで短縮している」(中島雅之チーフエンジニア)。当面は我慢比べが続く見通しだ。

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