「自国のことだけ」

画像の説明 米国の裏表ある態度に各国が反発 

TPP交渉なお膠着

TPP交渉をめぐり、ワシントンの地下鉄駅の床に描かれた日本を批判するキャンペーン広告。「自由貿易は一国よりも重要だ。日本を特別扱いするな」などと刺激的な言葉が並んでいる=15日(共同)
TPP交渉をめぐり、ワシントンの地下鉄駅の床に描かれた日本を批判するキャンペーン広告。「自由貿易は一国よりも重要だ。日本を特別扱いするな」などと刺激的な言葉が並んでいる=

カナダの首都・オタワで12日に閉幕した環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の首席交渉官会合は目立った成果を残すことができなかった。TPP交渉を主導するオバマ米政権は11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会合までの大筋合意というシナリオを描いているが、実際には米国と各国の間に深い溝が横たわっていることが明らかになった形だ。各国からは米国の強引な交渉手法への不信感も出ており、米国のシナリオは棚上げされた状態といえる。こうした膠(こう)着(ちゃく)状態が長引けば、アジア太平洋地域でのオバマ政権の指導力に疑問符が付きかねないが、米国には中間選挙前の妥協が難しいという現実もある。

裏表のある態度に反発

「困難な問題が少なからず残されている」。首席交渉官会合最終日の12日、日本の鶴岡公二首席交渉官は記者会見で、交渉の先行きに厳しい見方を示した。

また鶴岡氏は「最低もう一度は首席会合を開催する」と話し、首席交渉官レベルでの協議を継続する考えを示す一方、今夏にも見込まれていた閣僚会合の開催時期は明示しなかった。今回の会合では労働分野などで一定の進展があったものの、国有企業改革、知的財産、環境の3分野では、今後も各国の事務レベルで交渉を続けることが必要で、「まだまだ作業は相当残されている」(鶴岡氏)のが現実だ。

首席交渉官会合が壁に突き当たっている背景には、高い水準の市場開放を求める米国に対する各国からの反発がある。

米国は農産品などに関して各国に関税撤廃を求めるとともに、国有企業への優遇措置のあり方や医薬品の特許保護期間などについても新興国に対して厳しい態度を維持。しかしその一方、自国の砂糖市場を聖域にするといった戦術もとってきた。こうした裏表のある米国の強硬な態度は各国の反発を招き、その結果として交渉の進展が遅れている面もある。

中国を利する要因にも

ある交渉筋は「各国の二国間交渉では米国への不満も聞かされる」と内情を吐露する。会合にあわせてオタワを訪れていた通商交渉の専門家は「米国の交渉は自国のことだけを考えた偽善的なものだ」と切り捨てた。

バラク・オバマ大統領(52)は会合前の6月にAPEC首脳会合が開かれる11月までの協定文書案作成や年内の合意を示唆して交渉進展を促したが、今回の会合では合意時期は議題にならず、米国の思惑通りに事は運ばなかった形だ。

こうした状況はオバマ政権にとって大きな痛手になりかねない。TPPでアジア太平洋地域に高い水準の自由貿易圏を作ることには、米国の経済成長を後押しすることはもちろん、閉鎖的な経済政策をとる中国を牽(けん)制(せい)するという意味合いもある。TPP交渉の長期化はアジア太平洋地域における米国の影響力の大きさに疑念を抱かせかねず、中国の進出を招く要因にもなる。

オバマ政権はただでさえ、シリア情勢やウクライナ情勢への対応をめぐり、国際問題への対応が不十分だと批判されてきた。このうえアジア重視戦略の柱と位置づけるTPPも暗礁に乗り上げる事態になれば、全世界で米国のプレゼンスを損なったとの評価を受ける可能性もある。

難しい中間選挙前の譲歩

ただし支持率低下にさらされるオバマ政権は11月の中間選挙前に譲歩を示すことは難しいのが現状だ。米国の通商交渉に強い影響力を持つ下院歳入委員会の共和党議員全23人は17日、米通商代表部(USTR)のマイケル・フロマン代表(51)に対し、通商交渉に際して大統領に強い権限を与える「貿易促進権限(TPA)」法の成立前にTPPについていかなる合意もしないよう要望した。

14、15日に米ワシントンで開かれた豚肉や牛肉など農産品への関税をめぐる日米協議では、「霧が晴れて頂上が見えてきた」(大江博首席交渉官代理)とされるが、関税率の引き下げ幅といった論点では対立が残ったまま。4月の日米首脳会談後に到達した「8合目」から前に進むことができたわけではない。続いて行われた自動車分野での協議では、米国側が机をたたいて日本に詰め寄る場面もあったという。

日米協議の停滞はTPP交渉全体にブレーキをかける結果になっており、TPP交渉の先行きに関する不透明感は残ったままだ。

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