メタンハイドレートで

スイカ 日本は資源国になれるか

■夢の国産資源「燃える氷」とは何か

メタンハイドレートとは、低温高圧の条件下で水分子にメタン分子が取り込まれ、氷状になっている物質である。「燃える氷」と呼ばれることが多いメタンハイドレートは、温度を上げるか圧力を下げるかすると、水分子とメタン分子が分離する。分離されたメタン分子は天然ガスの主成分と同じものであり、重要な非在来型資源と位置づけられる。

わが国は、世界第6位の領海・排他的経済水域(EEZ)・大陸棚の広さを有し、これらの海域では大規模なメタンハイドレートの存在が確認されている。2006年度に行われた国の調査によれば、東部南海トラフ海域におけるメタンハイドレートの原始資源量(地下に集積が見込まれる資源の単純な総量で、可採埋蔵量とは異なる)は、1.1兆立方メートルに達する。これは、12年度のわが国の天然ガス消費量の約10年分に相当する。

いうまでもなく、国内に存在する資源は、供給リスクの低さの点から見て、最も安定したエネルギー供給源である。メタンハイドレートを産出、利用することができれば、「資源小国」日本のエネルギー事情は大きく好転する。メタンハイドレートは、わが国にとってまさに「夢の国産資源」なのである。

■日本周辺に存在する2つのタイプ

日本周辺に存在するメタンハイドレートには、2つのタイプがある。「砂層型」と「表層型」がそれである。
「砂層型」のメタンハイドレートは、水深1000メートル以深の海底下数百メートルの地層中で砂と混じりあった状態で賦存している。おもに太平洋岸沖の東部南海トラフ海域を中心に相当量の賦存が見込まれているが、砂層型メタンハイドレートを安定的、経済的に産出するためには、自噴を前提とした在来型石油・天然ガスの生産技術のみでは不十分であり、減圧・加熱により地層内でメタンハイドレートをメタンガスと水に分解したうえで、採取管を通してメタンガスを洋上に回収する新たな技術開発が必要となる。

一方、「表層型」のメタンハイドレートは、水深500~2000メートルの海底に塊状で存在する。おもに日本海側沖合を中心に、存在が確認されている。表層型メタンハイドレートについては、分布する海域や資源量などの本格的な調査の実施と、その結果をふまえた開発手法の確定が求められる。

■開発計画にみる商業化への道筋

13年1月から、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は伊勢湾沖で、世界に先がけて海域における減圧法(メタンハイドレートが埋蔵されている地層内の圧力を下げることによって、地層内においてメタンハイドレートをメタンガスと水に分離し、地表ないし洋上からつなげたパイプを通じてメタンガスを回収する手法)による砂層型メタンハイドレートからのメタンガス生産実験を実施した。
そして同年3月には、6日間で累積約12万立方メートルのガス生産量を確認した。

この実験の成功を受けて日本政府は、13年4月に新しい「海洋基本計画」を閣議決定し、そのなかでメタンハイドレートの開発に積極的に取り組む方針を打ち出した。そして経済産業省は、新「海洋基本計画」の内容を具体的に推進するために同年12月、新たな「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」(新「開発計画」)をとりまとめた。
新「開発計画」は、メタンハイドレートの開発に関する今後の取り組みについて、次のように述べている。

(1)砂層型メタンハイドレートについて
我が国周辺海域に相当量の賦存が期待されるメタンハイドレートを将来のエネルギー資源として利用可能とするため、海洋産出試験の結果等を踏まえ、平成30年度を目途に、商業化の実現に向けた技術の整備を行う。その際、平成30年代後半に、民間企業が主導する商業化のためのプロジェクトが開始されるよう、国際情勢をにらみつつ、技術開発を進める。

(2)表層型メタンハイドレートについて
日本海側を中心に存在が確認された表層型のメタンハイドレートの資源量を把握するため、平成25年度以降3年間程度で、必要となる広域的な分布調査等に取り組む。
このように記述したうえで新「開発計画」は、中長期的なメタンハイドレートの開発方針に関して、図2のような工程表を掲げている。
新「開発計画」の最大の特徴は、海洋産出試験で成果をあげた砂層型メタンハイドレートの利用に関して、平成30年代後半(23~27年)に民間ベースでの商業化をめざすという目標時期を明示した点に求めることができる。

■実用化へ向けて解決すべき3つの課題
もちろん、メタンハイドレートの実用化・商業化には、解決しなければならない問題が多々存在する。開発への取り組みが一歩先行している砂層型メタンハイドレートに限ってみても、以下のような課題を達成しなければならない。
第1は、生産技術の確立である。13年に実施した海洋産出試験では、坑井内に砂が流入する出砂が想定以上に発生したこと、気象条件が悪化したことなどにより、当初2週間を予定していたガス生産実験が6日間で終了することとなった。出砂など長期安定生産を行ううえで障害となる課題を克服する技術開発が急務である。また、減圧法のさらなる改良によって、生産量を増大させる必要があることも判明した。

第2は、経済性の確保である。13年の海洋産出試験の目的は、海洋の実際のフィールドで減圧法を適用した場合、どれくらいのコストがかかるかを推計するデータを得ることにあった。今後は、減圧法に限らず他の手法も視野に入れて、生産コストを飛躍的に低減する方策を講じなければならない。

第3は、環境面での影響の把握である。これからは、より長期の海洋産出試験の実施へ向けて、事前・事後を含めた環境面での影響評価を正確に遂行することが重要な意味を持つ。

■石油・天然ガス、レアアースはどうなるのか
なお、新「開発計画」は、メタンハイドレート以外の海洋エネルギー・鉱物資源についても、中長期的な開発方針を打ち出した。
各資源の開発目標は、以下のとおりである。

○石油・天然ガス
我が国周辺海域の探査実績の少ない海域において、石油・天然ガスの賦存状況を把握するため、三次元物理探査船「資源」を活用した基礎物理探査及び賦存可能性の高い海域での基礎試錐を機動的に実施する。また、得られた成果等を民間企業に引き継ぐことにより、探鉱事業の推進を図る。

○海底熱水鉱床
国際情勢をにらみ、平成30年代後半以降に民間企業が参画する商業化を目指したプロジェクトが開始されるよう、既知鉱床の資源量評価、新鉱床の発見と概略資源量の把握、実海域実験を含めた採鉱・揚鉱に係る機器の技術開発、環境影響評価手法の開発等を推進する(中略)官民連携の下、推進する。

○コバルトリッチクラスト(要旨)
公海域については、平成40年(28年)末までに民間企業による商業化を検討する。南鳥島周辺のEEZについては、資源量評価のための取組を本格化する。

○レアアース堆積物(要旨)
当面、3年間程度で海底に賦存するレアアース堆積物の調査を行い、概略資源量の把握に努める。同時に高粘度特性堆積物の採泥技術、大水深下からの揚泥技術などの開発に取り組む。

コメント


認証コード1124

コメントは管理者の承認後に表示されます。