異例の射撃許可

画像の説明 「逡巡なかった」 

南スーダンPKOから帰還の井川派遣隊長「従来解釈では対応できない」

アフリカ・南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣された陸上自衛隊の第5次隊のうち、最後まで現地に残った主力部隊約200人が20日に帰国した。派遣中、治安が悪化し、自衛のため射撃許可が下されるなど緊迫した状況に直面した。隊長として陸自第3師団(兵庫県伊丹市)を中心とする隊員約400人を率いた井川賢一1等陸佐(45)が帰国後、産経新聞の取材に応じ、約半年間の過酷な任務や射撃許可に至る経緯など現地の情勢を語った。

PKO派遣の目的は、2011年7月にスーダンから分離独立した南スーダンの安定と開発の支援。陸上自衛隊の派遣は2年前から始まり、本来の任務は主に道路整備だった。しかし、第5次隊は現地到着の直後から厳しい状況に直面した。

第4次隊と交代したのが昨年12月15日。井川1佐によると、「15日の深夜から(陸上自衛隊の宿営地がある)首都ジュバ市内で断続的な射撃音が聞こえてきた」。政府軍と、反政府のマーシャル前副大統領支持派の間で突然、銃撃戦が始まった。「実際に見たわけではないが、経験上(ライフルや拳銃などの)小銃、小火器の音のように聞こえた。身の危険を感じることはなかったが、緊張した」と振り返る。

その翌朝、異例の対応に追われた。宿営地に隣接する国連施設のゲート付近に避難民が集まり始めたのだ。「その数は数百から数千人」。昼過ぎに開門して避難民を収容した。避難民収容の際は、武器を持った人物がまぎれる可能性もあるため、緊張を強いられた。

「命を守るために撃て」と、異例の射撃許可が

年が明けた1月4日、今度はジュバ市内で銃撃戦が発生。5日夕刻には宿営地の近くで断続的な射撃音が聞こえた。

反政府勢力が首都に向かって進撃中との情報を国連から得た井川1佐は、全隊員に小銃などの武器弾薬の携行と防弾チョッキの着用を命じたうえで「正当防衛や緊急避難に該当する場合は、命を守るために撃て」と、異例の射撃許可を出した。自衛のための最小限の武器使用を認めているPKO協力法に基づく判断だった。

井川1佐は「逡巡(しゅんじゅん)はなかった。私の任務は隊員を守ることで、そのために下した決断。出発前に隊員の家族に対し『みなさまの大切な方を必ず無事に連れて帰る』と約束をしたことを思い出した」と打ち明けた。

派遣中の任務に関しては、「避難民の方の支援をしていたが、そのなかで避難民の方から『ジャパン、サンキュー』、また、片言の日本語で『アリガトウ』との声を聞いたときは、非常にやりがいを感じた」と振り返った。

一方で、現行のPKO協力法では、隊員の武器使用は正当防衛や緊急避難時などに限られ、陸自の管理下にない他国軍や難民を救うために武器を使う、いわゆる「駆け付け警護」を認めていない。

集団的自衛権の行使容認に向け政府がまとめた事例集でも「従来の憲法解釈では十分対応できない」と分類され、現状では武器を使って難民らを守ることはできない。

厳しい「現実」に対応するため、早急な法整備が

東部ジョングレイ州の州都ボルでは4月17日、PKO基地がデモ隊を装った武装集団に襲撃され、基地に避難していた住民48人が死亡した。現地にはいまも数万人が難民キャンプで暮らし、陸自も第6次隊が任務を始めた。今なお危険に直面する厳しい「現実」に対応するため、早急な法整備が求められている。

コメント


認証コード4186

コメントは管理者の承認後に表示されます。