集う外国人兵

　「聖戦行く」イラク・シリアへ

アルカイダ系武装組織「イラク・シリア・イスラム国（ＩＳＩＳ）」の勢力拡大が、世界にテロを拡散させかねない状況を生んでいる。周辺国や欧州などから推定１万人以上が、イラクでの戦闘やシリア内戦に加勢しているためだ。彼らがいずれ戻ってくる出身国は警戒を強めている。

「リビアの菓子店で結婚資金を稼いでくる」。チュニジアの首都チュニス近郊に住む主婦ナジハ・イベリさん（５０）は昨年１０月、菓子職人の長男ムハンマドさん（２７）の置き手紙に気づいた。慌てて携帯に電話すると「ジハード（聖戦）に加わる」と告白された。

４日後、再び電話に出た長男はシリアでアサド政権を相手に戦っていた。さらに１週間後に掛けると知らない男が出て「息子さんは死んだ」と告げた。

酒を飲み、信仰心もなかった長男がモスク（イスラム礼拝所）に通いだしたのは２年前。「そこでシリア行きを誘われたのだろう」とイベリさんは話す。

欧州からの参戦もある。チュニジアやアルジェリアなどからの移民が多いフランス。５月、ＩＳＩＳのツイッターに「殉教者」の写真が載った。イラクで自爆攻撃を仕掛けたフランス人だとされる。カズヌーブ仏内相は４月、「２８５人がシリアで確認された」と述べた。その一部がイラクに転戦しているようだ。

「同胞がつらい思いをしている。救いは『聖戦』にある」。１９日、動画サイトでＩＳＩＳの勧誘ビデオが公開された。英国や豪州出身だという５人が登場。イラクやシリアでの聖戦参加を英語で呼びかけた。

ロンドンの過激派研究センター（ＩＣＳＲ）は、昨年１２月時点で７４カ国の１万１千人がＩＳＩＳなどアルカイダ系に合流したと推計。欧州からは２８００人にのぼる。その他はサウジアラビア、チュニジア、リビアなど中東・北アフリカ諸国で大半を占める。

ＩＳＩＳはイラク国内でも戦闘員を勧誘する。今年１月から占拠する中部の都市ファルージャでは、市場にたむろする職のない若者たちに月２千ドル（約２０万円）の支払いを約束し、戦闘に誘っている。モスクでビラを配って人を集めることもする。

■テロの飛び火、出身各国懸念

外国の戦闘員に共通する事情として、中東調査会の高岡豊・上席研究員は「出身国で政治的、社会的な不満を持つ」と指摘する。

「アラブの春」で独裁が崩れたチュニジアとリビアでは政局の混乱で景気が低迷し、失業者が多い。一方で、欧州から参戦するのはイスラム系移民が大半。社会になじめず、差別も受けている。そうした中、「イスラム国家の樹立」というＩＳＩＳの呼びかけは魅力的に響くようだ。出身国の多くは、シリア内戦で反体制派を支援してもいる。

しかし、経験を積んだ戦闘員が帰国すると、テロが自国に飛び火しかねない。

ベルギーのユダヤ博物館では５月、アルジェリア系フランス人の男が銃を乱射、イスラエル人観光客ら４人が死亡した。犯行に使った銃は、男が１２年１２月から戦闘員を務めたとみられるＩＳＩＳの旗でくるまれていたという。英国のキャメロン首相は１７日、「戦闘員となった英国民は我が国の安全上、最大の脅威だ」と述べ、ＩＳＩＳの支援や関与を非合法化。スペインの治安当局は、戦闘員を勧誘した疑いでモロッコ系を含む容疑者１０人を逮捕した。

■内戦介入、勢力伸ばす

６月に入ってにわかに台頭し、１０日以降、イラク第２の都市モスルなど北部各地を制圧したＩＳＩＳ。２００４年にイラクを旅行中だった香田証生さんを拉致、殺害した「イラク・アルカイダ機構」の流れをくみ、イスラム教スンニ派の教義に基づく「イスラム国家」の樹立を目指す。

そもそもイラクで反米闘争をするために組織されたが、３年前から続くシリア内戦に介入してからは「アサド独裁政権の圧政からスンニ派の同胞を救うことこそ『聖戦』だ」との主張を掲げ、各国のスンニ派イスラム教徒の心情に訴えるようになった。

シーア派系が主導するイラクとシリアの現政権の打倒を掲げることで、クウェートやサウジアラビアなど、スンニ派湾岸諸国にある民間の聖戦支援団体や慈善団体から資金が流れているといわれる。

現在はイラク北部からシリア東部を拠点とし、地元企業から月計８００万ドル（約８億円）を「税金」として徴収していると報じられた。今年初めにはモスルの銀行を襲撃して４億ドルを強奪するなど、独自の資金力も強化している模様だ。

■シリア近辺検問、ＩＳＩＳが占拠

イラクの首都バグダッドから西へ約３２０キロのシリア国境付近にあるカイムの検問所が２１日、政府軍との衝突の末にＩＳＩＳに占拠された。ＡＰ通信が伝えた。内戦が続くシリア側からの武器の移動が容易になった形で、マリキ政権には打撃だ。

また地元メディアは２１日、バグダッドの３カ所で爆弾が爆発し、４人が死亡したと伝えた。

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