「黄金時代終わった」

画像の説明 「黄金時代終わった」不動産市場の行方は…

「中国不動産市場の黄金時代は終わった」。中国の不動産最大手、万科集団の郁亮総裁が先月、記者会見で述べた一言が注目を集めている。

バブル化が指摘されて久しい中国の不動産市場。需要予測の甘さや建設ありきの経営スタイルが、「鬼城(ゴーストタウン)」と呼ばれる入居者不在のマンション林立という不思議な現象を生んだ。それでも中国の公式統計では住宅価格の右肩上がりが続くことに、誰もが首をかしげていた。上海の不動産仲介業者に聞くと、広さ200平方メートルで500万元(約8200万円)前後の高級マンションが売れ筋という。30年近く中国の不動産ブームをリードしてきた郁氏の発言は、何らかの転換点を意味するのか。

上昇鈍化と厳しい格付け

郁氏発言の背景として、2つの動きが考えられる。まず住宅価格だ。公式統計でもここ数カ月、いよいよ上昇鈍化の兆しが見え始めていた。

中国国家統計局が集計している新築住宅価格指数で、4月は主要70都市のうち8都市の指数が低下した。3月の4都市からみて倍増だった。これまでの動きでは、前年同月比で10%を割り込むなど鈍化傾向にあった地方都市の伸び率を、前年同月比15~20%ものハイペースで上昇し続ける北京や上海などの大都市がカバーする格好だった。だが、両市のほか、広東省の広州市や深●(=土へんに川)(しんせん)市など好況だった都市でもこの指数の伸び率が毎月、数%ずつ下がり始めている。今年1~3月の不動産開発投資も前年同期比16.8%増と、昨年通年の前年比19.8%増を下回った。銀行が不動産向けの融資を渋り始めたことが要因とみられている。

もうひとつの背景は米格付け機関の厳しい評価だ。ムーディーズは先月、郁氏発言の1週間前、中国の不動産業者への見通しを、従来の「ステーブル(安定的)」から「ネガティブ(弱含み)」に引き下げた。住宅販売が今年は著しく伸び悩むとみている。郁氏発言よりも後だが、スタンダード・アンド・プアーズは今月9日、中国の住宅価格は昨年の11.5%上昇から今年は一転して5%下落すると予測した。売れ残り住宅が下落の要因になるという。

地方財政への飛び火懸念

ただ、かつて日本が経験した不動産バブル崩壊の前夜とは、どうも様子が違う。スタンダード・アンド・プアーズでは、「価格下落に伴って今年の住宅販売件数は後半に上向いて、むしろ通年では前年比10%の増加」を予想している。住宅価格は下がるものの、手ごろ感から売買は活性化して、暴落やバブル崩壊は起きないというのだ。

郁氏の発言もこの見方に近い。「黄金時代の終焉(しゅうえん)」はすなわち、投機や投資の対象として売買が繰り返された不動産の市場価格形成パターンが限界に達し、自分や家族が暮らす「実需」としての住宅市場に落ち着くとみている。

不動産市況が混乱なく、需給に基づく相場にソフトランディング(軟着陸)することは、中国マクロ経済の安定にとっても喜ばしいことだ。ただ、それでは困る面々もいる。中国では地方財政の大きな部分を政府による不動産開発が支えている。安価に収用した農地に鉄道や道路などのインフラを整備。その周辺の不動産を高値転売するという“錬金術”にも似た手法で財源を確保してきた。市況高騰を見越した投資が一部で返済不能に陥る懸念がある。

上海では値下げ競争激化

黄金時代の終わりが、地方財政のデフォルト(債務不履行)連鎖という暗黒時代の始まりにならないか。郁氏の発言はそんな不安を生んだ。

中国の不動産情報サービス会社のまとめによると、上海市で5月に成約した分譲住宅の面積は59万5500平方メートルと、前年同月比で34.9%も減少した。前月比でも21.8%の減少。上海の金融機関が不動産関連融資を引き締めたことに加え、売れ残りを懸念した業者の物件値下げ競争も激化しており、市場には様子見ムードが広がっている。

上海市内の住宅に対する民間の購買意欲調査で、回答者の53%が「年内に購入の予定はない」と述べた。また、68%は高騰が続いてきた上海市内の不動産価格が調整局面に入ったとの認識を示している。

中国全土で不動産市況の低迷傾向が見え始めたことに対し、中国住宅・都市農村建設省は4日の記者会見で、「多くの不動産関連指標はおおむね正常値。成長率はこれまで非常に高かったが、やや減速した。正常な調整だ」との見解を示した。だが、一部の不動産市場でまだ投機的な動きがあるとして、監視態勢は弱めないとも強調している。

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